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上原小学校

一枚のアートカードから広がる”自分の問い”。上原小学校の探究「シブヤ未来科」

渋谷区立上原小学校では、探究「シブヤ未来科」の実践を通じて、子どもたちが自分なりの問いを立て、その問いを深めていくための独自のアプローチに取り組んでいます。国語で培う言葉の力を土台にしながら、課題の設定にはアートカードを取り入れ、探究の最終的なアウトプットには「論文」を据える。教科の学びと探究を往還させながら、子ども自身が問いを掘り下げていく学びは、どのように生まれているのでしょうか。今回は、5年生の担任であり研究主任も務める山内隆太先生に話を聞きました。

各教科の中に、探究の種は散らばっている

まずは先生のご担当と、上原小学校での探究の位置づけについて教えてください。

現在、5年生の担任をしています。前職では一般企業にいた時期もあり、教員になってからは8年ほどになります。

山内先生

上原小学校では、学校全体として各学年に探究のテーマを置いています。1・2年生は生活科を基盤に、3年生は福祉、4年生は防災、5年生は環境、6年生はまちづくり、という大きな枠組みです。私が担任している5年生は環境をテーマにしつつ、今年度は幼保小の連携プログラムにも重点的に取り組んでいます。

学校全体の探究の考え方は、校長先生の想いが前提にあります。探究とは、未知の問題を見出し、未来に向けてよりよい社会を検討していく。そうした力を育てながら、子どもが自分の未来を語る自信と誇りを持てるようにしていく——それが上原小学校の探究の土台にあります。

その上で、本校の特徴は国語を中心に据えていることです。校長先生が国語を専門とされていることもありますが、理科でも社会でも、言葉を使ってやり取りをしなければ問題解決はできません。探究となればなおさら、国語の力、社会科の力、理科の力が統合されて発揮されなければならないと思っています。元をたどれば言語能力があって、その特性に最も応じた教科が国語だと考えているので、国語を軸にしながら、各教科に通じる汎用的な力を全校で育てているところです。

学習指導要領から、300の言葉を5つに絞る

各教科と探究基礎の接続で、難しかった点や工夫した点はありますか。

3年ほど前から、年間指導計画を先生方みんなで作り直してきました。学習指導要領を一緒に読み解いていくと、汎用的な力になり得る言葉が300ほど出てきたんです。

ただ、この300を「このスキルを使って探究しましょう」と子どもたちに渡すのは、やはり難しい。そこで、系統性を踏まえながら5つに絞り、上原小の重点思考スキルとしてまとめました。それに合わせて年間指導計画を書き直し、他の先生方の強みも活かしながら進めています。この絞り込みが一番大変でしたが、工夫したところでもあります。

各教科の年間指導計画。黄色でしめした単元が、探究の各過程——課題設定【課】・情報収集【情】・整理分析【整・分】・まとめ表現【ま・表】——と結びつけられている

大切にしているのは、国語で習ったことを国語の中だけで終わらせないことです。たとえば低学年で「順序」を習ったら、学習発表会の案内文を地域の人に送るときに、順序立てて説明したほうが伝わりやすいよね、と。授業で学んだことを、日常や学校の外でのアウトプットにつなげていく。教室で完結させず、掲示物などでも探究の視点や言葉を貼り出しています。直接「使いなさい」と教えるわけではないのですが、日常的に目に触れることで、「そういえばこんなのがあったな、使ってみようかな」と子どもたち自身が手に取れるようにしています。

一般企業から、ワークショップ、そして教室へ

課題の設定では、独自の方法を取り入れていると伺いました。その背景も含めて教えてください。

もともと私は、学生時代に人前で発表するのが苦手でした。それを何とかできないかと思っていた頃にワークショップに出会い、面白さに惹かれて、ワークショップデザイナーの資格を取りました。企業で働きながら、NPOの立ち上げを手伝ったり、子ども食堂で子どもと哲学対話をしたり、といった活動もしてきました。

そうしたワークショップの経験が、探究「シブヤ未来科」という取り組みとちょうど噛み合った感覚があります。専門教科を持たないままワークショップをやってきた私に、当時の校長先生が「国語科は、すべての教科の土台になるから、国語の研究を一緒にしましょう。」と声をかけてくださって、そこから国語を研究し始めた、という経緯もあります。

アートカードから、問いは生まれる

課題の設定では、美術館のアートカードを使っていると伺いました。どのように活用しているのでしょうか。

探究「シブヤ未来科」の課題設定では、美術館のアートカードを使っています。ワークショップをやってきた背景から、私なりに取り入れているものです。

授業で活用している国立新美術館のアートカード・セット

まずグループごとに1セットを配って、カードを並べてもらいます。その年の大きなテーマ——去年は「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」、今年は「環境」でした——を提示し、映像なども見せた上で、「このテーマを表現するとしたら、どのカードを選ぶ?」と投げかけます。色や形、さまざまな表現があるカードの中から、子どもたちがテーマに近いと感じる一枚を選びます。

面白いのは、選んだ理由がそれぞれ違うことです。「色がたくさんあるから、これが多様性だと思う。でもまだ黒い部分があるから、そこを何とかしたい」と全体で捉える子もいれば、一つひとつの色に注目して「この白は何を表しているのか」と語りたい子もいる。同じカードを選んでいても、感じている課題は違うんです。選んだ理由を子ども同士で説明し合い、共通の模造紙にメモを書きながら、自分のカードを持って別のグループへ移って説明する。ワールドカフェのような形で対話を重ねていきます。

一つのカードから様々な視点が生まれていく

そこから出てきたキーワードをもとに、「みんなで解決しなければいけない課題は何だろう」と焦点化していきます。グループでまとめ、全体でまとめ——去年は7つほどの課題が出てきました。近い課題を挙げた子ども同士でまた集まって、探究を進めていくイメージです。

一枚の絵が、新しい視点を引き出す

アートカードを使うことで、子どもたちの思考にはどんな変化がありますか。

環境というテーマは、放っておくとどうしてもすでにいろいろなところで見られる方向に寄りがちなんです。「エコバッグを持つ」「ゴミを分別する」——それで完結してしまう。子どもたちは日頃から多くの情報に触れ、知識を蓄積しているため、課題について考える際には、既存の考え方や一般的な価値観に沿った答えに落ち着きやすい面もあります。

でも、アートカードから入ると、「人とのつながりも大事だ」といった視点が出てくるんです。話し合いの中ではなかなか出てこない新しい視点に、子どもたち自身が気づいていく。少し後ろ寄りの、即興性のある思考が引き出される感覚があります。

このカードは、1年間の探究を終えた振り返りにも使います。「今の自分に当てはまる絵はどれ?」と選んでもらい、その絵を使って説明する。「探究の道は、この絵みたいにずっと続いていく気がする」というように語る子もいます。思考が横に広がりながら、縦にも深まっていく。問いの質が変わっていく手応えがあります。

調べる相手は、自分で決める

子どもたちの情報収集や、学校外との連携はどのように進めていますか。

高学年は、対外的なアウトプットをゴールに置いています。去年は区役所の経営企画の部署に向けて発表したり、一昨年は学校公開で保護者や地域の方に発表したり、といった形です。

そのゴールに向けて、自分たちが設定した課題について情報を集めていくのですが、「誰に聞きたいか」を子どもたち自身が考えます。My探究では、1人につき一つの企業、あるいは一人の大学の先生にアプローチする、ということをやっています。睡眠について調べたい子は睡眠を研究する先生に、という具合です。電話をかけるのか、メールを送るのか、手紙を書くのか——自分にとって伝わりやすい媒体を子どもが選びます。小学生は手紙を選ぶことが多いですね。返事が返ってこないことも多いのですが、企業の方がオンラインで対応してくださったり、思いがけず返信をいただけたりすることもあります。

こうした連携では、保護者の力にも支えられています。PTAの会長を通じて保護者に呼びかけてもらうと、さまざまな業種の方とつながることができる。去年は、5年生と一緒に何かできないかと保護者の方から声をかけていただいて、子どもたちが商品づくりや会社との連携につながった例もありました。渋谷という地域の特性を活かしながら、子どもたち自身がアプローチできる土壌をつくっているつもりです。

集めた情報を整理・分析する際に、工夫していることはありますか。

あえてワークシートは使わず、白紙の状態で子どもたちに委ねることが多いです。情報収集はアンケートが適切なのか、取材がいいのか、サンプル調査がいいのか。手法は「こういうものがあるよ」と掲示で示しておきますが、その中からどう組み合わせるかは子どもたちに任せます。整理・分析と情報収集を行ったり来たりしながら、自分たちで最適な形を見つけてほしいんです。

声かけとしては、基本的に5W1Hを大事にしています。「本当にこれで大丈夫かな」「どうしてその方法を選んだの」と問いかけ、個人やグループで考えてもらいながら焦点化していく。ただ、ゴールが曖昧だと探究はどうしても散らかってしまうので、「この単元ではどんな力が身につくといいのか」というゴールは、最初にはっきり示すようにしています。ゴールがぶれなければ、子どもたちもぶれずに進んでいけます。

最終アウトプットに「論文」を選んだ理由

探究のまとめとして「論文」を選ばれたのは、どのような考えからですか。

3年前に本校へ来たとき、校長先生と話して論文を最終アウトプットに据えることを決めました。探究「シブヤ未来科」のハンドブックにも論文という言葉があったことも後押ししました。

出典:探究「シブヤ未来科」ハンドブック 16ページ

探究発表会が短期のゴールですが、大人が発表するときも、論文を使うかプレゼンを使うか、大きくはこの2つです。どちらも世界共通の型なので、6年間の集大成としてやっておいたほうがいいのではないか、と考えました。

9月頃には、大学の先生に論文の作り方を教わる講座を6年生向けに開いています。最初は難しいのですが、探究を進めるうちに「自分たちがやってきたことは、論文の書き方と同じだ」と子どもたちが気づき始めるんです。そうすると「これなら書けそう」となる。My探究では、半分以上の子が論文を選びます。中には放課後に大学の先生のところへ行って、「今こういう研究をしていて、ここが分からなくて」と自分から質問しに行く子もいます。

論文づくりでは、副題を必ずつけるようにしています。ここが一番時間がかかるところです。たとえば「母の偉大さはどこから来るのか」というテーマに、「子どもと大人の視点から」という副題をつける。調べれば出てくる一般論ではなく、自分だけのオリジナルの探究にするには、どんな副題が必要かを子どもたちが考えます。「夢を壊さずに伝えるにはどうすればいいか」というテーマを立てた子は、小さい頃に親に言われてショックを受けた経験から、自分が親になったときにどう伝えるかを考えていました。心理学や人との関わりに関するテーマは、やはり多いですね。

もう一つ大事にしているのが、根拠をどこに置くかです。10人に取ったアンケートと200人に取ったアンケートでは、どちらがデータとして活きるか。もちろん数が多いほうが強いこともあれば、聞く内容によっては10人のほうが正しいこともある。まとめ・表現は、それまでの情報収集や整理・分析でやってきたことを文章にするだけだと思っているので、その手前のプロセスをぐるぐると回していくことを、大きな工夫として置いています。

子どもたちが作成した論文
子どもに委ねるために、大人が準備する

この取り組みを通して、先生ご自身のマインドに変化はありましたか。

子どもたちに委ねる部分を大事にしたい、という思いは変わりません。ただ、こちらが身につけてほしいと思っている力は絶対にぶれてはいけないので、子どもに委ねるからこそ、こちらがしっかり準備をしなければならない。そのことを、より一層感じるようになりました。

私自身は、各教科の学習を着実に積み重ねることが、子どもたちが自ら問いをもち、主体的に探究を進めていくための地力につながると考えています。それが上原小学校の考え方でもあります。だからこそ、一単元、一時間の授業を大事にしていきたい。教科との接続も論文の作成も、発展させるというより、継続していくほうが難しいと感じています。探究「シブヤ未来科」はまだ3年目で、過渡期です。言葉の土台や汎用的な力の土台ができた先に発展があると思うので、まずはここを続けていくことが大切だと考えています。ホップ・ステップ・ジャンプでいえば、今はステップを続けているところですね。

最後に、同じ悩みを持つ先生方へ、共有できることを教えてください。

探究ハンドブックは、学年の探究を立ち上げようというときには必ず目を通していますし、研究主任として先生方にも「改めて見てください」とお伝えしています。やはりベースになるものだと思います。振り返りや課題設定のワークシートも、作り替えながら活用させていただいています。

研究主任という立場もあり、研究全体会などの場では、先生方にもまずミニワークショップとして体験してもらうことから始めています。アートカードのような手法をすべての先生と共有できているわけではまだありませんが、こうした場を少しずつ重ねていくことが、学校全体で探究を続けていく土台になればと思っています。

研究全体会で、先生方に向けて行われたワークショップの様子

最近は、探究「シブヤ未来科」のポータルサイトを通じて、企業とのマッチングが以前より簡単にできるようになりました。

探究「シブヤ未来科」ポータルでは、学校と企業・団体がつながり、渋谷区の探究「シブヤ未来科」の学びを共に作り上げていくことができる

教員が企業にアプローチすることのハードルが下がり、今年は私自身も活用させてもらっています。先生方が作った資料も共有の資産として少しずつ集まってきているので、こうしたものが広がっていくと、もう一段、探究が進んでいくのではないかと思っています。