Special Feature | 探究スペシャルコンテンツ

interview
富谷小学校

子どものつぶやきが「問い」へと育つ。富谷小学校が大切にする、問い返しと伴走の声かけ

渋谷区立富谷小学校は、探究「シブヤ未来科」が始まった当初から、手づくりの試行錯誤を重ねて探究学習をかたちにしてきました。「課題の設定」「情報収集」「整理・分析」「まとめ・表現」という探究のプロセスを、総合的な学習の時間だけでなく日々の教科の学びにも広げ、子どもたち自身が問いを立て、学びを深めていく授業づくりを進めています。

今回お話を伺ったのは、主幹教諭として学校全体の学びづくりに携わる加藤先生。探究の発表会で、子どもたちの気づきを自然に引き出す声かけが印象的でした。子どもの探究に伴走するうえで大切にしている視点や、声かけの工夫について伺いました。

手づくりから始まった探究を、学校全体の学びへ

まずは、担当されている学年・ご役職と、学校としての探究の位置づけについて教えてください。

渋谷区に来て10年目になります。今は主幹教諭として、学年を越えて学校全体の学びづくりに関わっています。本校では探究「シブヤ未来科」が始まった当初から、かなり手づくりの状態でスタートし、2年目、3年目と続ける中で、それぞれの教員が試行錯誤する段階から、少しずつ学校としての形が見えてきました。

加藤先生

探究では、他者との関わりや本物の体験、人から教えていただくこと、地域とのつながりの中で学びを深めることを大切にしています。今年度はそこに教科横断的な視点も加え、国語や社会、理科とも関連づけながら、『課題の設定→情報収集→整理・分析→まとめ・表現』という探究のプロセスを、日常の教科の学びの中でも育てていきたいと考えています。

つぶやきを「問い」に育てる、問い返しの声かけ

子どものつぶやきや気づきが「問い」へと発展していくとき、何を大切にしていますか?

子どもが何かに気づいたり感じたりしたとき、まず『この子は何を言いたいんだろう』を大切にしたいと思っています。聞かなければわからないので、かなり問い返しをします。『今のそれって、どういうことなんだろうね』『本当にそう思う?』と、その場で終わらせず、一度立ち止まって考えられるように促します。

探究につながりそうだと感じた気づきは取り上げて書き出し、『みんなはどう思う?』と全体に共有します。個人の問いを全体の問いにしていくイメージです。子どもの言葉は、まだはっきりと言葉になりきっていないことも多いのですが、だからこそ『何となく価値がありそうだな』と感じるところを深掘りしたり、『これは個人で調べられそうだね』と取捨選択したりすることもあります。

中学年だと、自分の考えを言葉でまとめるのは、相当に力がついていないと難しい。ですから、子どもたちの言いたいことを私のほうで解釈し、文脈を整理したうえで、『この言葉で合っているかな』『みんなが考えたことと一致しているかな』と、必ず確認するようにしています。

個の興味は「My探究」へ、課題は「子ども起点」で

一つひとつ問い返していくと時間はかかりますが、これは永遠の課題ですね。ある子の興味がとても強いけれど全体で取り上げるのは難しい、というときは、『それはMy探究で取り上げてごらん』『自主学習でやってごらん』と促します。それでも『発表したい』となれば時間をつくりますし、レポートにまとめたいとなれば手伝う。全体の流れと個の興味を、そうやって両立させています。

課題は、できるだけ子ども起点にしたいのですが、身近に感じられないと子ども起点にはならないので、『自分ごと』として感じてほしい。こちらには『ここにたどり着いてほしい』という意図はありますが、そこに子ども自身が行き着くように、どんな仕掛けをするかを考えます。ゲストティーチャーに話してもらおうとか、子どもがこんなふうにテーマと出会えるようにしたいとか。身近なところから入っていくと問いが続きやすく、前の学年や教科で学んだことを別の視点で深められるなど、子どもの意識も広がっていきます。

My探究の『自分のテーマ』作りでは、まず教員である自分自身がやってみました。その過程を体験したうえで、同じことを子どもにもやってもらうと、3年生でも、自分の『好き』を入り口に、その魅力や人気の理由へと問いを広げ、ちゃんと探究らしいものになっていきます。

My探究のテーマを具体的にする際に使用したフロー
「今、どの段階にいるか」が見える探究へ

探究の「過程」を子どもが意識できるよう、工夫していることはありますか?

子どもたちには、探究的な学び方そのものを自覚できるようになってほしいので、『今、自分は何をしている段階なのか』がわかるようにしています。掲示で単元の流れを示し、『情報を集めて、次はインタビューに行こう』『そこからどんなことが見えてきたんだろう』と、今どの段階にいるのかを共有しています。

探究は、一度結論が出ても『じゃあ、これはどうなんだろう』と課題が更新され、螺旋のように回っていくものだと捉えています。『街の魅力を伝えよう』と取り組んでいた子が、いざ発信する段階で『自分たち自身が魅力を実感できていない。もう一度、街に出なきゃ』と気づいたこともありました。

情報収集では、インターネットなども活用しますが、大切にしたいのは本物に触れることで生まれる気づきです。一度きりや、ただ教えてもらうだけにしたくないので、ゲストティーチャーには『あえてダメ出しをしてください』とお願いすることもあります。子どもにも『何のために話を聞きたいのか』『終わってみて何が変わったのか』を問いかけ、ただ聞いて終わりにしないようにしています。

テーマ探究で広がる、地域とのつながり

昨年度は『地域の魅力を伝えるにはどうしよう』というテーマで、まず商店会長さんに街の魅力を伺うところから始めました。子どもたちは『自分たちはこう伝えたい』と考え、エコバッグをデザインして販売したり、手ぬぐいを製作したり、クラスによってはクラウドファンディングにも挑戦しました。デザインを学ぶために専門家に来ていただき、クリスマスのイベントで実際に販売したクラスもあります。地域や保護者とのつながりを生かせるのは渋谷区ならではで、『自分たちがやった』『自分たちで考えた』という気持ちを、子どもたちに持ってもらえたのではないかと思います。

児童が作成した手ぬぐい
事実と考えを分け、「選んで考える」整理・分析

集めた情報を整理・分析する場面では、どんな工夫をされていますか?

まずは子どもたちがどんどん情報を出し、自由に広げていけるようにします。そのうえで『絞らなきゃいけないな』と感じられるように促し、適していると思う思考ツールを示しながら、子ども自身が考えていきます。『同じところはどこ?』『違うところは?』と問いかけたり、目に見える形で整理して分類してみたりもします。

もう一つ大切にしているのは、見えてきた事実と、そこから自分はこう考えた、という部分を、子どもが分けて書けるようにすることです。『これはみんな同じ事実だね。じゃあ次はどう考える?』と問いかけ、子ども自身が事実と考察を切り分けながら進んでいけるようにしています。

声かけで自分でもよく使うのは、『一番○○なことって何?』という問いかけ。『一番感じたことは?』、逆に『まだわからないことは?』と聞くこともよくあります。まとめたいときは『一言で言うと?』。あとは、子どもが自分で選べるようにすることが多いです。選ぶ場面をつくると必ず手が上がり、『わからなくてもいいよ』と伝えたうえで『そう思った理由は?』と聞くと、そこからまた話し合いが広がっていきます。

目的と相手意識から、表現方法を選ぶ

まとめ・表現や、学びの記録ではどんな工夫をされていますか?

特にMy探究では、『何のために、誰に伝えたいのか』という目的と相手意識をたくさん話し合います。販売活動やパネルディスカッション、発表会など方法はいろいろありますが、『ただやりたいから』ではなく、それぞれのメリット・デメリットを子どもと確認し、子ども自身が選べる環境をつくっています。

学びの記録は、デジタルとアナログのどちらもたくさん書いています。デジタルでは振り返りに取り組み、『今日やったことはどうだったか』『特に意識したことは何か』を子ども自身が書いていきます。3年生くらいだと、デジタルが難しければアナログでもよく、まずは自分の考えを表に出すこと、自分で書けるものを選ぶことを優先しています。

「復習メニュー」と「ワクワクメニュー」

本校では宿題ではなく『家庭学習』として、自分の課題に合った内容を、自分の学び方で取り組もうと伝えています。その中で取り入れたのが、『復習メニュー』と『ワクワクメニュー』です。復習メニューは、テスト勉強や苦手の克服など、定着のための学習。ワクワクメニューは、オリジナルキャラクターづくりのように、自分の『好き』や興味から広げる学習で、探究の心とつながっていく部分だと感じています。比率は決めず、どちらを選んでもよく、子ども自身が考えて取り組んでいます。ワクワクメニューには、こちらからフィードバックや花丸を返しています。

児童のワクワクメニューの取り組み
教師が「整えすぎない」——子ども主体の学びをつくる

日々の実践で大切にされている、探究の視点や教育観について教えてください。

正直なところ、探究「シブヤ未来科」だからといって特別に大きく変えた感覚はありません。『子ども主体でいきたい』『教師が整えすぎない』という考えは、探究に限らずどの教科でも大事にしたいことです。人として成長してほしい、自分で物事を考え、自分で切り開いていってほしい——そういう願いは、もともと自然に持っていたものだと感じます。

教科の授業でも、話し合いや対話の場面を入れたり、子どもが育ってきたら子ども自身が説明する場をつくったりしています。ただ、教師の伴走や支援がなければ学びが成立しない部分も多いので、『ここはしっかり時間をとろう』とコントロールしながら関わっています。

子どもは、自分が決めたこと・やりたいと思ったことには、こだわって取り組むなと実感しています。振り返りや発言からも『自分たちで決定する』『自分たちで学びをつくっていく』という手応えを感じ、それを楽しいと思える子が増えてきたように思います。活発に発言できる子に偏りがちなので、『間違えてもいいんだよ』と伝えながら、全体の底上げをしていきたいです。

拡散と深まり、そして基礎学力との両立

探究を進めるうえで、難しさを感じる場面はありますか?

ここ数年で難しいと感じるのは、子どもの『やりたい』がいろいろな方向に拡散しすぎてしまう場面です。『福祉』というテーマでも、グループごとにばらけると学びが深まりにくく、教員の介入もゲストティーチャーの確保も追いつきません。ですから学級・学年単位で一つの方向に向かい、『こういう見方ができるようになったね』というところまで届けるのが、今はいちばん良いのかなと考えています。

校内では『探究と言っているけれど、基礎学力の定着こそ課題ではないか』という声もあり、その通りだと思います。ただ、だからドリル的な学習だけをすればよいのではない。教えるべきものはきちんと教え、子どもがそれを活用できるようにする。さらに『こういう学び方・考え方があるよ』と伝え、子ども自身が取捨選択できるようにしていく。そのバランスを、今まさに調整しています。

教科の学びへ、そして教員同士で学び合う

最後に、今後の展望や、他の先生方へ共有できることがあれば教えてください。

『総合的な学習の時間や探究とは、こういうものなのだ』という理解を、校内の教員全体でさらに高めていきたいです。そのうえで『そもそも教科にも探究的な学びがあるよね』とつなげ、教科の学びと探究を融合させていく方向で発展させていきたいと思っています。

そのためにも、学んだことや『いいな』と思ったことは、教員同士でお互いに伝え合おう、授業を見合おう、ということを大切にしています。『こういう実践があるよ』『この勉強会に行ってみない?』と声をかけ合うことで、学校全体の学びが豊かになっていくと感じます。

児童が制作した作品と一緒に