Special Feature | 探究スペシャルコンテンツ

interview
広尾中学校 松濤中学校 LVMHジャパン

「本物」に触れ、世界の見方が変わる。企業連携で広がる探究学習の可能性

渋谷区の探究「シブヤ未来科」では、子どもたちが実社会とつながりながら学びを深めていくために、さまざまな企業との連携を進めています。2025年11月、渋谷区立広尾中学校と松濤中学校の中学2年生132名を対象に、LVMHグループとの協働によるテーマ探究が実現しました。

この取り組みは、LVMHグループが世界各地で展開する次世代育成プログラム「Excellent!」の日本初実施として行われたものです。8つのメゾン(ブランド)から職人やアーティストが学校を訪れ、子どもたちは革への染色や手彫り、生地織りといった「匠の技」を五感で体験しました。

本記事では、教育委員会・学校・企業の三者の視点から、この企業連携プロジェクトを紹介します。企業パートでは、本プログラムのプロジェクトリーダーとしてLVMHジャパン側の実施を担った山内さんに、子どもたちの学びを支えた企業側の想いや工夫、そして関わりを通じて得た気づきについて話を聞きました。

子どもたちの学びを支えたLVMHジャパンの想いと気づき

LVMHジャパン 人事部 ピープル&カルチャー シニア マネジャー 山内さん

「子どもたちに匠の技を伝えたい」——探究「シブヤ未来科」との出会い

LVMHジャパンが探究「シブヤ未来科」に協力することになった経緯を教えてください。

山内さん LVMHグループでは、ヨーロッパで匠の技を子どもたちに伝える次世代育成プログラムを展開しており、その日本版を立ち上げたいと考えていました。以前から渋谷区の関係者の方々との交流があったなかで、探究「シブヤ未来科」の取り組みを知り、私たちのプログラムとの親和性が高いと感じてお声がけしました。ちょうど広尾中学校と松濤中学校が新しい教育の形を模索するタイミングでもあり、お互いの方向性が合致したことで実施が決まりました。

「ヒューマンスキル」と「創造性」——テクノロジーの時代だからこそ伝えたいこと

このプログラムを通じて、子どもたちにどのようなことを伝えたいと考えていましたか?

山内さん 私たちが大切にしている匠の技には、「ヒューマンスキル」が多く現れています。人間にしかできないこと、手を使うこと、人の感情を汲み取ること、ホスピタリティ、誰かのために何かを贈ること、自分のユニークな個性を使って作り上げること、自然の素材に触れること——。こうした要素を、多感な時期の子どもたちに体験してほしかったのです。

もちろんテクノロジーやAIは素晴らしいものですが、それらと協働しながら「人間力」や「創造性」を高めていけるように、子どもたちにきっかけを届けたいと考えていました。大学生になると就職活動に直結しがちですが、そうではなく、もっと根本の部分で子どもたちが感動して、「自分も何かを作りたい」「世の中をよくしていきたい」と感じてもらえたらと思っていました。

また、キャリアという観点でも大切にしていたことがあります。中学生の時に「何になりたいですか?」と聞かれると、自分が見ている世界の中から職業を選びがちですよね。でも、自分では見るチャンスがないような世界をあえて私たちが提供していくことで、新しい仕事の可能性に気づいてもらえるかもしれない。今ある職業が10年後にどう進化するのか、子どもたちが新しい仕事を生み出せるかもしれない。匠の技の継承は、同じことを繰り返すだけではなく、子どもたちがどう解釈して新しいものを創っていくか。そういう形の継承になっていくといいなと思いました。

「2次元」ではなく「3次元」——五感に刻む本物の体験を

子どもたちが「今まで知らなかった世界」に出会うために、どのような工夫をされましたか?

山内さん 工夫の一つは、先生方と話し合いながら設計した事前課題です。各ブランドの創設者がどんな時代を生き、なぜその製品を作ろうと思ったのかを子どもたちに調べてもらいました。「知ってるよ」と思っていたブランドの裏側に、創設者の想いや起業家精神があることを知って、「すごい!」と驚いてくれる姿が印象的でしたね。

もう一つは、「頭で理解する」のではなく「全身で感じる」体験にこだわったことです。たとえば革への染色技法を体験した子どもが「いい匂いがした」とフィードバックに書いていたり、銅板への手彫りでは「1本の線を引くのがこんなに難しいとは思わなかった」という声があったり。こうした身体的な体験こそ記憶に深く刻まれると考え、あえてアナログな体験をたくさん詰め込みました。

ベルルッティのパティーヌ(革に染色を施す技法)の体験
ティファニーの銅板へのハンドエングレービング(手彫り)の様子

「なぜ会社が存在するのか」——仕事の本質を考えるきっかけに

「実社会とのつながり」を子どもたちに実感してもらうために、心がけたことはありますか?

山内さん 一つは、創業者・起業家の想いまで感じてもらうことです。「なぜ仕事をするのか」と聞かれたら、お金を稼ぐため、と思うかもしれません。でもそもそも会社というのは、世の中の課題を解決しようという想いから生まれていて、長く続いている会社というのは、それが必要とされ続けているということだと思うのです。

子どもたちには、仕事というものをもっと深い意味で捉えてほしいと思いました。世の中を観察して、何が求められているのか、まだ誰も気づいていない価値を提供することで人がより幸せになるのではないか——そんなことに気づくきっかけを作りたかったのです。

そうすると、日頃見ているお店の見方も変わってくるはずです。「この会社って誰が作ったんだろう」「どういう想いでやっているんだろう」「新しい製品は何のためなんだろう」「自分だったらどうする?」。そういうふうに、身の回りのものを新しい視点で捉え直してもらえたらいいなと考えていました。

あわせて、環境問題や社会課題との関わりについても意識してほしいと思っていました。子どもたちの方がSDGsについてはよく知っていると思いますが、将来自分が働く中で、環境問題や社会問題にどう関われるのか。仕事をしながら社会にも貢献できるという視点を持ってほしいと感じていました。

「次はいつですか?」——社員の変化と、企業が得た気づき

子どもたちとの関わりを通じて、企業側が得た気づきや学びはありましたか?

山内さん プロジェクトが終わったとき、参加した社員から「次はいつですか?」「次もぜひ参加したい」という声がすぐに寄せられました。それほどに社員にとっても嬉しい体験だったのだと実感しています。改めて自分の仕事に誇りを持てる機会になり、会社への愛着や帰属意識が高まったという手応えもありました。

子どもたちからの新しい視点という点でも、大きな学びがありました。たとえば、職人から「子どもたちの色づけの仕方が自分の予想外で勉強になった」という声がありましたし、ディオールのメイクアップ体験で「モデルになってくれる人はいますか?」と聞いたら、男の子が手を挙げてくれたんです。当たり前のことかもしれませんが、男性がメイクをすることへの抵抗がなくなっている時代の変化を、社員が自然な形で実感できたことは大きかったですね。

パルファン・クリスチャン・ディオールのメイクやフレグランスを体験

社内で「多様性の尊重」と言われて知識としては知っていたけれど、子どもたちとのリアルな体験を通じて「これは本当に自然なことなんだ」と実感した社員も多かったと思います。研修で学ぶのではなく、実体験として世の中の変化を感じ取れたことは、非常に価値のある経験でした。

また、今回のプログラムではさまざまなブランドが合同で参加したので、普段は関わらない社員同士のコミュニティが自然と生まれ、ブランドの垣根を越えた交流が活性化したことも良い副産物でした。

学校とつくる授業——企業連携を成功に導くポイント

学校側との事前調整で、特に意識されたことはありますか?

山内さん まず大切にしたのは、先生方が日頃どんなことを考えているか、子どもたちにどんな力をつけてほしいと思っているか、今どんな課題を感じているかを丁寧にヒアリングすることでした。私たちが「こういうことをやりたい」と一方通行にならないよう、先生方が目指していることに対して、私たちがどんな形で提案できるかを考えました。

たとえば先生方から「起業家精神を持ってほしい」「環境や社会に対する意識を育みたい」というニーズを伺ったのですが、まさにLVMHのブランドは起業家が作っているんですよね。それなら創設者について学ぶ事前課題を一緒に設計しましょう、という形でコンテンツを作っていきました。

あとは、中学生ならではのことも重要です。長時間集中し続けるのは難しいですし、立ち上がったり、途中で飽きてしまったりすることもあると聞いていました。いかにして子どもたちの興味を持続させ、集中力を保つか——その構成も先生方と一緒に考えました。社会人だと「大丈夫だろう」と思うことが子どもには通用しないこともありますから、先生方のアドバイスは本当にありがたかったですね。先生にも当日の授業に入っていただき、子どもたちへの声かけのコツなども教えていただきました。

「夢と憧れの創造」——LVMHが描く、教育連携の未来

最後に、今後の展望をお聞かせください。

山内さん LVMHには「夢や憧れの創造」というミッションがあります。このプログラムを通じて、まさにそれを体現していきたいと考えています。今回は職人やメイクアップアーティストが中心でしたが、店頭で接客を担うスタッフや店長など、お客様との対話の魅力を伝える仕事もあります。そうした多様なキャリアの存在も、今後は子どもたちに届けていきたいですね。

また、業種の垣根を越えて、他の企業とも一緒に子どもたちの教育について考えていけたらいいなと思っています。先生方との新しい教育のあり方についてのディスカッションも重ねていきたいですし、常に進化していきたい。ブランドの人たちとその都度話し合いながら、やり方も含めて、より良いプログラムを作り続けていきたいと考えています。

プロジェクトの実践と子どもたちの学び

今回のプログラムについてコメントをいただけますか。

広尾中学校 川上校長

探究「シブヤ未来科」では「自ら考え、仲間と協働し、未来を実現する力」を育むことを大切にしています。今回のプログラムは、まさにその理念を体現する貴重な機会になりました。職人の方々が大切にしている技やホスピタリティの精神を、生徒たちが直接体験できたこと。これは教科書だけでは得られない、生きた学びだったと感じています。この体験が、生徒たちの将来の選択肢を広げるきっかけになってくれたら嬉しいです。

松濤中学校 中村校長

松濤中学校は「世界へ 松濤中生」というスローガンのもと、国際理解教育を進めています。グローバルに活躍する人材を育むうえで、今回のプログラムは非常に意義のある体験でした。各ブランドが長年培ってきた専門的な技術に触れながら、世界に影響を与える創造性の一端を体感できたことは、生徒たちにとって大きな経験だったと思います。今日の学びが、これからも世界的な視野で挑戦し続ける第一歩になることを願っています。

渋谷区が目指す探究、企業連携の意義

探究「シブヤ未来科」が企業連携を通じて目指していること、そして今回のプログラムから見えた可能性についてお聞かせください。

渋谷区教育委員会 渋谷区では、探究「シブヤ未来科」を通して、子どもたちが自ら問いを立て、他者と協働しながら未来を切り拓く力を育むことを大切にしています。その実現に向け、学校の学びを社会とつなぐ手立てとして、企業・団体等との連携を積極的に推進してきました。企業や専門家との出会いは、学びを「教えられるもの」から「自分事として考えるもの」へと転換させる大きな力を持っています。

探究のプロセスにおいて企業・団体との連携は、単なる知識提供の場ではなく、子どもたちの問いを深め、視野を広げるための重要なパートナーとして位置づけています。LVMHジャパンとの連携授業では、職人の技や仕事に込められた価値観、ホスピタリティといった「本物」に触れる体験を通して、子どもたちが強い感動を覚え、自分なりの問いを生み出していく姿が見られました。これは教科書や映像だけでは得られない、探究ならではの学びの深まりだと捉えています。

こうした企業・団体との連携を通じて、子どもたちには、社会には多様な価値観や生き方があること、自分の興味や関心が未来の選択肢につながっていくことに気づいてほしいと考えています。教育と企業・団体が協働することで、探究の可能性はさらに広がっていくと確信しています。渋谷区では、学校と同じ方向を向き、子どもたちの学びを共に創ってくださる企業をパートナーとして募集しています。企業の皆さまのご登録をお待ちしています。


 

渋谷区の探究「シブヤ未来科」では、子どもたちの学びを一緒に支えてくださる企業パートナーを募集しています。企業の皆さまのご登録をお待ちしています。

▶ 企業連携のご登録はこちら:https://tankyu-shibuya.com/register/company