探究は「子ども自身の選択」から。 神宮前小学校が実践する、問いを深める学びの設計
渋谷区の「未来の学校」モデル校として指定を受け、探究学習に取り組んできた神宮前小学校。同校では「課題の設定」「情報収集」「整理・分析」「まとめ・表現」という探究サイクルを大切にしながら、子どもたち一人ひとりが自分で問いを立て、学びを深めていく授業づくりを進めています。
今回は、4年生の担任を務めながら、研究主任・探究コーディネーターとして同校の探究学習を担当する藤木先生に、子どもたちの主体性を引き出す関わり方や、問いを深める学びの設計について話を聞きました。
各学年のテーマは「地域」と「学びの連続性」を軸に
まずは担当されている学年・教科とご役職について教えてください。
私は4年1組の担任として、図工と音楽以外の教科を担当しています。役職は主任教諭で、校内では研究主任と探究コーディネーター、学年主任を兼務しています。渋谷区での勤務は2年目で、これまで都内の複数の学校で約10年間教員として勤めてきました。
初任の頃から児童主体の学びに関心があり、体育の授業を通した主体的・対話的な学びの研究から始まり、後に研究主任として探究的な学びや探究のサイクルをすべての授業に活かす取り組みを行いました。渋谷区では、探究学習が本格的に始まったタイミングで着任し、研究主任と探究コーディネーターを任されることになり試行錯誤しながら取り組んでいます。
今年度の探究学習は、どのようなテーマで進めていらっしゃるのですか?
4年生の大きなテーマは「誰にとっても優しいまち」です。昨年度までは障害者福祉に焦点を当てていましたが、今年度は子どもたちが学びたいと思ったことに臨機応変に対応しています。児童福祉や高齢者福祉など、さまざまな視点が育っていくといいなと考えています。
ただ、いきなり「福祉」と言われても子どもたちは身構えてしまうので、まずは障害者福祉を切り口に、少しずつ理解を深めている段階です。あえて障害者理解ではなく「福祉」という視点から入ることで、社会の仕組みや支援のあり方についても考えられるようにしています。
この学習が一区切りついた後は、子どもたち自身に学びの方向性を選んでもらう予定です。「福祉全般についてさらに学びたい」という子もいれば、「障害者理解を深めたい」という子もいるでしょう。それぞれの興味や関心に応じて、学びの方向性を選べるようにしていきたいと思っています。
そしてさらにその先には、My探究が待っています。例えば「あなたが住みやすいまちをつくるとしたら、どんなまち?」という問いを子どもたちに投げかけ、自分の好きなことと結びつけながら探究を進めてほしいと考えています。服が好きな子は服について考えるかもしれませんし、その中でどうしたら障害のある方とうまく接点を持てるか、優しいまちになるかを模索してくれるといいなと思っています。どの子も自分の「好き」を起点にしながら、障害のある方の可能性を広げる道を見つけてくれたら嬉しいですね。
藤木先生が探究学習で特に重視されているプロセスはありますか?
探究のプロセスには「課題設定」「情報収集」「分析」「まとめ・表現」という4つのステップがありますが、私が最も大切にしたいと思っているのは課題設定です。まだまだ十分にできているとは言えませんが、子どもたちが「自分たちでやりたい」と心から思える課題を設定できたなら、その後の学びは自然と進んでいくと感じています。
課題設定を深めるために、私が意識しているのが「ゼロサイクル」という考え方です。これは、講師の先生から教わった概念で、探究のサイクルを回し始める前の段階を指します。子どもたちの「問い」がすぐに調べて答えが出てしまうようなものであれば、それは本当の「問い」とは言えません。
「それは本当に探究すべき課題なのか?」「調べたらすぐ終わってしまうのではないか?」「本当に知りたかったことは何なのか?」こうした問いかけを通じて、課題設定と情報収集を行ったり来たりしながら、子どもたちを本当の問いへと導いていくのがゼロサイクルです。特にMy探究では、この段階がとても重要になってくると昨年度の子どもたちの様子を見ていても感じています。
その他の探究プロセスで工夫されていることはありますか?
今の子どもたちはタブレットを使った情報収集が非常に得意で、興味のあることについてどんどん情報を広げていくことができます。ただ、情報を集めた後、それをどう整理し分析していくかという段階で苦戦しています。
子どもたちが選んだテーマは私自身も専門家ではない分野が多く、専門的な知識を教えられないこともあります。どうやって優先順位をつけるための声かけをするのか、どんなツールを使えばいいのかは悩むポイントで、情報の整理・分析については試行錯誤の段階です。
また、最近特に伝えているのは情報源の見極め方です。例えば「Wikipediaの情報は必ずしも正確ではない可能性があるから、大元の資料をちゃんと読んでから判断してね」と声をかけたり、個人が書いているブログには、その人の意見や考えが入っていたりするので、「それは誰が、どういう立場で書いているの?」と問いかけるようにしています。
今の4年生は、いわゆる「ショート動画世代」「切り抜き世代」です。短い動画や情報の断片から知識を得ることに慣れている子どもたちに、どう情報と向き合ってもらうかは大きな課題だと感じています。特に力を入れたのが「主観と事実の違い」を理解すること、そして自分で判断する力を育てることです。前期はこのテーマに重点を置いて取り組みました。
子どもたちからは、時々ドキッとするような発言が出てきます。SNSやショート動画で得た情報をそのまま鵜呑みにして、「〇〇(人物名)反対!」「〇〇(国名)っていいんですか?」など、正直、教員としてどう答えていいか困ることもあります。でも、こうした発言の背景には、ショート動画で見た強烈な情報があることが多いのです。
そんなときは「それを言ってる人たちは、本当にあなたにとって大切なことを教えてくれているの?」「それはあなたが本当に自分で判断したこと?」「強烈な響きだけで判断していない?」などと問いかけて、情報との向き合い方を授業の中で繰り返し伝えるようにしています。多面的に物事を見る、相手の立場を想像する、そういう考え方を育んでいきたいですね。
日々の実践の中で、藤木先生の“探究の視点”や大切にされている姿勢は何かありますか?
私個人としては、「否定しない」、「止めない」ということを大切にしたいと思っています。探究の学びは失敗してもそこから何かを得ればいいという側面が大きいので、失敗が見えていても「一度やってみなよ」と促すこともあります。
ただ、他の子に危険があったり、良い影響を及ぼさないと感じたりするときは、「どうしてそれやってみたいの?」と理由を深掘りしていきます。すると、単純なひらめきや思いつきでやろうとしていた場合、「こういうときどうしたらいいの?」と問いかけると「やっぱりやめようかな」となることがあります。まずは子どもに考えてもらい、自分でやめるという決定をしたり、やってみるという決定をしたりそうした自己選択をしてもらいたいと思っています。
探究学習では、「場の選択は自分でする」というのが基本的な考え方です。具体的には、課題の選択、内容の選択、場の選択を子どもたち自身に委ねています。友達と協力した方がうまくいきそうなときは一緒にやってもいい。でも、最初から「みんなでやっていいよ」と言ってしまうと、仲がいい子同士で何となくグループになり、テーマもバラバラなのに「一緒にやってます」という状況になりがちです。
だから、まずは個人で取り組ませてみる。その中で「○○さんも同じようなことをやっているから、一緒に話し合ってみたら?」と声をかけ、必要に応じてグループになるかどうかを子どもたち自身が判断していく流れを大切にしています。
一緒に話し合ったからといって、必ずしもグループで発表する必要はありません。対話を重ねながら、それぞれが自分の探究を深めていく。そんな柔軟なかたちを目指しています。
発表の仕方も選択させたいと考えています。ポスターで発表したい子もいれば、プレゼン資料を使ってデバイスで見せたい子もいる。紙に書いた方が伝わりやすいと感じる子もいれば、Canvaなどのツールを使いこなして、デジタルで作った方が早くて分かりやすいと感じる子もいます。
今の子どもたちは、Canvaをすごく使いこなすんですよ。だから、その子にとって一番伝わりやすい、一番やりやすい方法を選んでもらう。私は、その選択をサポートする立場です。
地域や企業との連携はどのように進めているのでしょうか?
探究が始まってから、「学校現場に関わりたい」という企業の方が次々に声をかけてくださるようになりました。逆にこちらとしてはお断りしているものもあるくらい、精査している状況です。学年ごとの大きなテーマは4月の段階で決めているので、そこの学びに合っていくかどうかを重視しています。何でもかんでも入れるというよりは、一つの企業さんと長い目線でできるところとご一緒していることが多いですね。
外部企業との連携は、まず校長や私が話を聞いていろいろ教えていただきます。それをもとに、どの学年が適切か、やってみたい学年はあるかという希望を取って、学年にお渡しする形をとっています。
企業さんによっては既にプログラムがある場合もあるので、それに乗っかるときもあれば、初めての取り組みの場合は、どれくらいの時間でどういったゴールを目指すのかを話し合ってから、企業さんに案を作ってもらい、こちらで確認するということもあります。そこでは、学年の先生との連携が重要ですね。
例えば、昨年5年生のときには、神宮前小学校の30周年記念「ケイタマルヤマプロジェクト」でデザインを学びました。卒業生の丸山敬太さんとの「Tシャツデザインプロジェクト」で、原宿の商業ビルで展覧会を開催し、子どもたちがデザインしたTシャツを販売したんです。売れ行きが良くて、買えなかった方もいたので、追加生産分を探究フェスで受注販売しました。保護者の方も、お子さんがデザインしたTシャツを買ってくださって、とても盛り上がりました。本物のプロの世界に触れる、本当に素晴らしい経験でした。
そこで学んだことを活かして、今年6年生になった子どもたちは、レゴと商品開発をして、デザイン方面に焦点を当てて進めています。今年の6年生の担任の先生2人が、「去年Tシャツをやったから、この学年に合っているんじゃないか」と考えてくださって、快く引き受けてくれました。運動会の準備で大変な時期だったにもかかわらず、打ち合わせも丁寧にしてくださって、本当に頭が上がりません。経験が次の学びを生み、それがまた次の学年へとつながっていく。これこそが、探究学習の積み重ねなのだと感じています。
最後に、今後の展望があれば教えてください。
正直に言うと、私自身もまだ手探りの部分が多いです。神宮前小学校に来て探究学習が始まってから、この2年間は本当に怒涛でした。さまざまな知識を吸収し、試行錯誤の連続でした。
探究学習は、まだ確立された「正解」がありません。実際、講師の先生方でも、言っていることが180度違うこともあるんです。だから、「何が正解なのか」を探すよりも、子どもたちにとって何がベストなのかを考えながら、地道に進めていきたいと思っています。
私が目指しているのは、子どもたちが自分のやりたいことを実現できる場が一つでもあればいいということです。今までの学校では、決められたことをやるのが当たり前でした。でも、探究の時間は「自分のやりたいことをやっているんだ」と感じられる時間。そういう経験が、もしかしたら将来の職業選択につながっていくかもしれません。